IPAから、高度情報技術データ・AI試験の科目Bサンプル問題(全6問)が公開されました。マネジメント区分・システム区分に続き、データ・AI区分でも出題のイメージがつかめるようになりました。
この記事では、公開された6問それぞれについて、問題の概要・正解・考え方のポイントを解説します。問題文の全文はIPAの公式PDFでご確認ください。
※資料上は、仮称の「プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)」の名前で公開されています。本試験は2026年10月16日に正式名称が高度情報技術試験に決定しました。
出典:IPA プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)科目Bのサンプル問題(PDF)(著作権はIPAに帰属します。本記事は問題の概要を要約して解説しています)
サンプル問題の全体像
| 問 | 題材 | 関連するシラバスの大項目 | 正解 |
|---|---|---|---|
| 問1 | データコントラクトとデータ利用ガイドライン | 1 データマネジメント | イ |
| 問2 | 散布図行列と重回帰分析(ECサイトの利益) | 2 データ・AIの活用 | キ |
| 問3 | LLMを使ったトラブルシューティング支援(RAG) | 2 データ・AIの活用 | エ |
| 問4 | データレイク・DWH・データマートへのデータ配置 | 3 データ基盤の構築 | ウ |
| 問5 | SQLと統計情報による結果行数の見積り | 4 データ処理とアルゴリズム | オ |
| 問6 | 得点補正アルゴリズム(擬似言語) | 4 データ処理とアルゴリズム | オ |
6問で科目Bの4つの大項目すべてをカバーしています。シラバスの構成は「データ・AI試験 シラバスVer.0.1の解説」で整理しています。
問1:データコントラクトの変更とガイドライン策定(正解:イ)
問題の概要
各部門がデータのオーナーシップを持つ分散型のデータマネジメントを採用するA社が舞台です。営業部門が提供する「顧客別月間売上データプロダクト」を、マーケティング部門が解約予測AIの入力として使っています。営業部門は別部門の要望を受けて、既存の売上カラムの単位を千円から円に変更しました。しかし、説明文(メタデータ)は「千円単位」のまま残り、マーケティング部門にも通知しませんでした。その結果、解約予測AIが「売上が1000倍になった」と誤認して異常な予測を出してしまいます。この事象の原因(a)と、再発防止のために利用者が守るべきガイドラインの新規契約時の条文(b)を選ぶ問題です。
正解と考え方
正解:イ(a=(一)、b=(五))
- a:原因は、営業部門がデータの意味(セマンティクス)を変えたのにメタデータを見直さなかったこと、そして後方互換性のない破壊的変更を既存利用者に通知・再合意しなかったことです。AI補助ツールの仕様や、要望を出した部門のせいにする選択肢は、本質的な原因ではありません。
- b:利用者側は、データコントラクトの定義に矛盾や不備があれば提供者に修正を求め、正しい定義が反映されてから合意するべきです。実データを独自に検証する(四)は運用として非効率で、提供者の責任をあいまいにします。損失を事前報告する(六)は、再発防止になりません。
ポイント:データコントラクト、データプロダクト、提供者と利用者の責任分担といった、シラバス大項目1の新しい考え方がそのまま問われています。
問2:散布図行列と重回帰分析の解釈(正解:キ)
問題の概要
ECサイトの利益最大化に向けて、利益・売上・訪問者数・SNS広告費・メール配信数の24か月分のデータを散布図行列で可視化します。さらに、SNS広告費とメール配信数を説明変数とした3つの回帰モデルを比較し、散布図行列から読み取れること(a)と、最良モデル(モデル3、決定係数0.949)の解釈(b)を選ぶ問題です。
正解と考え方
正解:キ(a=(三)、b=(四))
- a:SNS広告費とメール配信数の間に弱い正の相関があり、多重共線性の存在が示唆されます。
- b:重回帰の係数は「他の説明変数を一定にしたときの影響」を表します。そのため、メール配信数が同じならSNS広告費を1万円増やすと利益は約3.6万円増える、と解釈できます。
- 誤答の見極め:切片がマイナスでも「利益が出ない」ことにはなりません。また、決定係数0.949は「精度94.9%」ではなく、目的変数の変動のうち約95%をモデルで説明できるという意味です。
ポイント:計算力よりも、統計の結果を正しく解釈する力が問われています。決定係数や回帰係数の意味の取り違えは、典型的なひっかけです。
問3:LLMを使った支援システムの設計(正解:エ)
問題の概要
精密機器メーカーが、保守エンジニア向けにLLMを使った対話型のトラブルシューティング支援システムを構築します。要件は「製品仕様書の頻繁な改訂を速やかに反映すること」と「回答の根拠となった仕様書を確認できること」の2つです。追加学習(ファインチューニング)と、検索結果をプロンプトに付加する方式(RAG)を比較し、採用した方式の中身(a〜c)を選ぶ問題です。
正解と考え方
正解:エ(a=(一)、b=(五)、c=(六))
- a:プロンプトに付加するのは、外部データベースから検索・抽出した関連文書です。LLM自身の知識から検索するわけではありません。
- b:パラメータを更新せずに、与えられた情報から回答を導くのは文脈内学習(In-Context Learning)の能力です。
- c:根拠を確認できるように、回答の根拠となった関連文書名を表示します。信頼度スコアの数値だけでは、エンジニアが根拠を直接確認できません。
ポイント:RAGとファインチューニングの使い分け、ハルシネーション対策としての根拠提示という、生成AI活用の実務の基本が問われています。
問4:データ分析基盤へのデータ配置(正解:ウ)
問題の概要
住宅設備メーカーが、コールセンターの問合せ記録(日別のJSONファイル)を、データレイク・DWH・データマートからなるデータ分析基盤に追加します。3つの利活用要件に応じて、データをどこに配置し、どこから加工するか(a〜d)を選ぶ問題です。
正解と考え方
正解:ウ(a=DWH、b=データレイク、c=データマート、d=DWH)
- 要件1(全期間を対象に、さまざまな軸で汎用的に検索・集計したい):ユーザー・設備のマスターと結び付けられるDWHに配置し、元データはデータレイクから加工して格納します。
- 要件2(設備保守部門が特定の条件で切り出して使いたい):特定用途向けのデータマートに配置し、整備済みのDWHのデータを加工して格納します。
- 要件3(機械学習に使いたい):加工前の生データを保持するデータレイクから、データプリパレーションツールで加工して使います。
ポイント:データレイク(生データ)→DWH(全社共通・統合)→データマート(用途特化)という、各層の役割の理解が問われています。
問5:SQLと結果行数の見積り(正解:オ)
問題の概要
160万件の物件テーブル(沿線は400種類、エアコン・オートロックの有無はそれぞれY/Nの2値)を検索するSQLについて、結果行数の見積り(a)と、割合を百分率で求める式(b)を選ぶ問題です。列値は互いに独立で、一様分布に従うと仮定します。
正解と考え方
正解:オ(a=3,000、b=COUNT(*) * 100 / TOTAL)
- 1沿線あたりの物件数は、1,600,000 ÷ 400 = 4,000件です。
- 「エアコンとオートロックの両方あり」は、4,000 × 1/2 × 1/2 = 1,000件です(問題文のSQL1と一致します)。
- 「どちらか一方以上あり(OR)」は、「両方なし」の1/4を除いた3/4なので、4,000 × 3/4 = 3,000件です。
- 百分率なので、件数に100を掛けてから総件数で割り、COUNT(*) * 100 / TOTALとします。SUM(*)は構文として成立しません。
ポイント:SQLの構文だけでなく、統計情報からデータ量を見積もる力も問われています。旧データベーススペシャリスト試験に近い発想の問題です。
問6:得点補正アルゴリズムの読解(正解:オ)
問題の概要
昇順に並んだ得点の配列を受け取り、中央値が50点になるように補正する擬似言語のプログラムを読み解きます。配列{20, 30, 30, 30, 60, 80}を渡したとき、補正後に50点以上になる要素の個数を答える問題です。
正解と考え方
正解:オ(5個)
- 要素数6(偶数)なので、中央値は3番目と4番目の平均で(30+30)÷2=30です。
- 中央値以下の得点は「50÷30×得点」で補正されます。20点は33点、30点は50点になります。
- 中央値より大きい得点は「50÷(100−30)×(得点−30)+50」で補正されます。60点は約71点、80点は約86点になります。
- 補正後は{33, 50, 50, 50, 71, 86}なので、50点以上は5個です。
ポイント:基本情報技術者試験の科目Bに近い、擬似言語のトレース問題です。「中央値以下」という条件に、中央値と等しい値が含まれる点に注意しましょう。
IPAが示した出題趣旨
IPAは出題趣旨の中で、データドリブンな意思決定と、それを支えるデータマネジメント・データガバナンス・データ基盤の重要性を挙げています。さらに、AIが生成するデータを誤りや偏りなく評価して事業に用いる能力が求められているとしています。サンプル問題も、データライフサイクル全体を通してデータとAIの活用を推進する技能を評価する構成になっています。
まとめ
- サンプル問題は全6問。科目Bの4つの大項目(データマネジメント、データ・AI活用、データ基盤、データ処理とアルゴリズム)をすべてカバー
- データコントラクトやRAGなど、新しいテーマが実務シナリオで問われる
- 統計の解釈、SQLの見積り、擬似言語の読解など、手を動かす力も必要
サンプル問題から見えた出題傾向と学習戦略は「データ・AI試験の出題傾向と対策」で詳しく分析しています。マネジメント区分・システム区分のサンプル問題は「IPA公式サンプル問題 全10問の解説」をご覧ください。