IPAから、高度情報技術試験のうちこれまで未公開だったデータ・AI区分(高度情報技術データ・AI試験)のシラバス(案)Ver.0.1が公開されました。これで、マネジメント・システム・データ・AIの3区分すべての出題範囲が出そろったことになります。
この記事では、公開されたシラバスの構成を整理し、科目A-2(専門知識)と科目B(技能)でそれぞれ何が問われるのかを、分野ごとにわかりやすく解説します。区分の概要は「高度情報技術データ・AI試験とは」もあわせてご覧ください。
※シラバスの資料上は、仮称の「プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)」の名前で公開されています。本試験は2026年10月16日に正式名称が高度情報技術試験に決定しました。シラバスはVer.0.1(案)であり、今後変更される可能性があります。
出典:IPA プロフェッショナルデジタルスキル(データ・AI)試験(仮称)シラバス(案)Ver.0.1(PDF)
シラバスの構成:「知識」と「技能」の2部構成
データ・AI区分のシラバスは、前半に「目標とする知識」、後半に「目標とする技能」を記載する構成になっています。それぞれが試験科目と次のように対応しています。
| 試験科目 | シラバスでの位置づけ | 記載されている場所 |
|---|---|---|
| 科目A-1(共通知識) | 全区分共通の知識 | 別の「共通知識シラバス」に記載 |
| 科目A-2(専門知識) | データ・AI区分の専門知識(用語例) | 本シラバスの前半 |
| 科目B(技能) | データ・AI区分で求める実務技能 | 本シラバスの後半 |
冒頭には参考図として、「データドリブンな活動を支える組織環境及び基盤を構築してデータを整備・活用する活動」の全体像も示されています。データを組織の資産として管理し、基盤を作り、分析・AIに活用するという一連の流れ全体が試験範囲だと読み取れます。
科目A-2(専門知識):8つの中分類
専門知識は、全区分共通の分類体系のうち、次の8つの中分類から出題されます。
| 大分類 | 中分類 | 主な内容と用語例 |
|---|---|---|
| 2 データ・AIの利活用 | 8 データマネジメント | データガバナンス、FAIR原則、DIKWモデル、データ品質(JIS X 25012)、メタデータ管理、データリネージ、MDM、データメッシュ、データスペース |
| 9 データ分析・データ利活用 | データレイク/DWH/レイクハウス、ETL/ELT、CDC、統計的手法(回帰分析・仮説検定・因果推論)、可視化、業務分析 | |
| 10 AI利活用 | AI事業者ガイドライン、ISO/IEC 42001、識別AI・生成AI・AIエージェントの活用、Temperature、RAG、ガードレール | |
| 4 デジタル技術 | 15 クラウド | マネージドサービス、マルチAZ・DR、FinOps、クラウド移行、IaC、コンテナ |
| 17 データベース | データモデリング(概念・論理・物理)、正規化、SQL(ウィンドウ関数・相関副問合せ)、トランザクション、分散DB、CAP定理 | |
| 4 デジタル技術 | 18 AI技術 | 機械学習の手法と評価指標、ディープラーニング、LLM・RAG・RLHF、AIエージェントの設計パターン(ReAct等)、MCP、A2A |
| 5 システムの開発・運用 | 22 アルゴリズム・プログラミング | 応用数学(線形代数・数値解析)、データ構造、整列・探索・グラフのアルゴリズム、Python・R、JSON・YAML |
| 7 倫理・コンプライアンス | 29 プライバシー関連法規 | 個人情報保護法、仮名加工情報・匿名加工情報、GDPR、PIA、k-匿名化、差分プライバシー、連合学習 |
注目ポイント①:データマネジメントの比重が大きい
中分類8「データマネジメント」は、データガバナンスの体制(CDO、DMO、データスチュワードなど)から、データ品質の国際規格、メタデータ、マスターデータ管理、データ流通まで、非常に細かく用語が挙げられています。「データを分析する人」だけでなく「データを組織として管理する人」を強く意識した区分であることがわかります。
注目ポイント②:データベースは旧データベーススペシャリスト級
中分類17「データベース」には、正規化、トランザクションの隔離性水準、ロック方式、障害回復、分散データベースなど、旧データベーススペシャリスト試験でおなじみの内容がそろっています。旧DB試験の学習経験がある方には大きなアドバンテージになります。
注目ポイント③:生成AI・AIエージェントは「技術」と「活用」の両面
中分類10(AI利活用)では、AIを業務に導入する判断・ガバナンスが、中分類18(AI技術)では、LLMの仕組みやAIエージェントの設計パターン(ReAct、Plan-and-Execute、Orchestrator-Workersなど)、MCP・A2Aといった最新技術が問われます。
科目B(技能):4つの大項目
科目Bの出題範囲は、次の4つの大項目で構成されています。シラバスには「科目Bの各項目の出題割合は基本的に大項目の構成に基づく」と記載されています。
| 大項目 | 小項目 | 問われる技能のイメージ |
|---|---|---|
| 1 データマネジメント | 1-1〜1-9(9項目) | データ戦略の策定支援、体制・役割設計、データアーキテクチャ設計、ルール・標準の策定、データ整備・提供、PoC支援、モニタリング |
| 2 データ・AIの活用 | 2-1〜2-5(5項目) | 分析の目的設定、BI・可視化、統計・機械学習・時系列解析、生成AI(RAG・AIエージェント)の適用、AI倫理 |
| 3 データ基盤の構築 | 3-1〜3-4(4項目) | 管理対象データの明確化、概念・論理・物理データモデル、トランザクション・バックアップ設計、データパイプライン構築 |
| 4 データ処理とアルゴリズム | 4-1〜4-3(3項目) | SQL(DDL・DML・ウィンドウ関数)、データ構造、アルゴリズムの読解・実装・テスト |
大項目1「データマネジメント」は特に詳しく記載
シラバスでは、大項目1についてだけ、理解しやすいように詳細まで記載し、末尾に補足説明と参考図を付けています。対象となるのはデータスチュワード、データアーキテクト、データエンジニアなどが役割に応じて遂行する技能で、経営層やCDOが行う最終決定・承認は対象外とされています。つまり「方針を決める人」ではなく、「方針の案を作り、設計し、実行・支援する専門職」としての力が問われます。
特に新しい要素として、次のような技能が明記されています。
- データの提供者と利用者の間で仕様・品質・責任分担を定めるデータ契約(データコントラクト)と、その変更管理プロセスの設計
- AIへの入力・学習データや、AIが生成・加工したデータの管理ルールの策定と適合性の評価
- セマンティックレイヤー、オントロジー、ナレッジグラフ、ベクトル検索を組み合わせた「人とAIの両方が使えるデータ」の設計
- 再利用可能なデータプロダクトとしての設計・提供
大項目4は「プログラムを読み解く力」も対象
大項目4では、SQLの記述に加えて、データ構造やアルゴリズムを実装したプログラムを読み解き、動作を把握・改修する技能が挙げられています。公開されたサンプル問題でも擬似言語のプログラム読解が出題されており、基本情報技術者試験の科目Bに近い形式の問題も含まれると考えられます。
他区分のシラバスとの違い
| 観点 | データ・AI区分の特徴 |
|---|---|
| 中心となる対象 | データそのもの(管理・品質・基盤・分析・AI活用) |
| 想定する役割 | データスチュワード、データアーキテクト、データエンジニア、データサイエンティスト |
| 技術の深さ | SQL・DB設計・統計・機械学習まで、手を動かすレベルの技能を含む |
| 新しさ | データコントラクト、データプロダクト、AI生成データの管理など最新の考え方を反映 |
マネジメント区分・システム区分のシラバスは「シラバス(Ver.0.2)完全解説」、全区分共通の科目A-1は「科目A-1(共通知識)シラバスの解説」で整理しています。
まとめ
- データ・AI区分のシラバス(案)Ver.0.1が公開され、3区分の出題範囲が出そろった
- 科目A-2は8つの中分類。データマネジメント・データベース・AI技術の比重が大きい
- 科目Bは4つの大項目。特に「データマネジメント」が詳しく、データスチュワード等の専門職としての技能が問われる
- SQL・アルゴリズムなど、手を動かす技能も範囲に含まれる
公開されたサンプル問題の解説は「データ・AI試験 サンプル問題 全6問の解説」、出題傾向と学習戦略は「データ・AI試験の出題傾向と対策」で紹介しています。